今はなくなってしまったアスキーNTのことです。今回問題にするのは1999年1月号104ページがらのNew Technology X-FILES 最新電源事情です。
せっかく見過ごされがちな電源なんていいところに目を付けながら間違った知識を広めているのですね。残念!多分作者が身を置いている組織や社会では電気に強い人と思われているのかもしれません。105ページではオーディオの電源というコラムでプロの録音スタジオの設備やマニアの電源の取り方に触れていますし。確かに設備についての調査は正しいですが,その理由が間違っています。きっとそのスタジオの職員の方の説明鵜呑みなのでしょうが、スタジオのオーディオエンジニアと言えども、経験則的にこうしたらノイズが乗らない・ノイズが減ったという事を知っているだけで、科学的・電気工学・電子工学的な説明を正しく出来る方は少ないです。(かつてその業界に身を置いていましたからそこは詳しいです。)いわゆる理屈抜きの経験則でこなしている事が多いのです。もちろん、音の扱いについてはプロですから良い音を作っています。しかしそれと正しい電気知識があるかどうかは別です。でも、このライターは取材先の言い分を鵜呑みにしているのでしょうね。繰り返します。理由が間違っています。
確かにコイル・トランスは電流の流れを安定にする働きがありますから、他の大電力利用者のトランスと分けることに意味はあります。が、しかし、このコラム内での別系統として表現されていものの、そのほとんどは多分ブレーカーの回路を別に分けているだけのことです。6000V to 100Vトランスの二次側100Vのタップは直流的に同じタップです。直流的に分けられた別巻き線でありません。相当の大口需要者でない限り、二次側に100Vのタップが複数あるわけではないのです。アナログ回路で使用する100Vとデジタル回路で使用する100Vは6000V to 100Vトランスの同じ二次側タップを利用しています。せいぜい単相200v三線引きのL1-Nをアナログに、L2-Nをデジタルに100Vとして利用している程度です。(それも電気工事の人にお話できたとき。ここまで指定すると建築の設計さんとか電気工事担当の人にまず変人とおもわれます。)
じつはブレーカー回路を分けるのにも意味があります。この世に存在するケーブル全てに言えることですが、微量の抵抗分を持っています。単位長さが同じで単位時間当り同じ電流を流した場合、断面積の大きい方が発熱量が少なくなります。発熱はどんな金属にも起こります。金が一番伝導率が高いので発熱が一番低い金属です。一般に価格の点でコストメリットがある銅を配線材として利用しています。超伝導状態でもない限り、どんなケーブルも固有抵抗を持っています。抵抗があるところに電流が流れれば電圧が生じます。その方向は電流の流れる方向とは逆に生じます。
消費電力がない状態でケーブルに
100Vを印加しているところに、負荷をかけて電流が流れたとたん、
100Vに逆らう方向に電圧が生じます。見かけ上
100Vが低下する様に見えますから
電圧降下と言います。定格100vの機器に100vを供給したくても、数ボルト低い電圧となってしまうこともあります。電子機器に電圧降下を少なく電気エネルギーを供給するには、電気室のブレーカーから電気機器に供給するまでのケーブルを出来る限り太くすれば良いのです。それでも抵抗分はありますから電圧降下は生じます。この電圧降下の影響をなるべくお互いの機器で受けないようにするには、同じ部屋で使用するにもかかわらず、電気室から別系統でケーブルを引いて電気を供給すれば良いのです。電気室でケーブルの端点にかかる電圧は同じですが、使用する部屋ではそれぞれの機器の電圧降下分だけの変動となり、お互いの影響が少なくなります。と言っても機器が消費する電力がとてつもなく大きいと当然相手の回路に影響を与えます。通常、電気室からケーブルを引く時にはケーブル1系統につき1つのブレーカーを与えるので、たとえ同じ部屋で使用する場合でもケーブルを複数引いた時にはその個数分のブレーカーを用いてそれぞれのケーブルを別系統にしているはずです。
デジタル・アナログ問わず、電子機器の発生するノイズも電流の流れ・電圧の変動・電気エネルギーの一種ですからケーブルを伝わります。そしてケーブルを流れるうちに電圧降下で減衰します。同じ系統のケーブルに複数の機器を接続してあると当然、減衰前のノイズが相手の機器に影響を与えます。別系統にすることでノイズは電圧降下後の値で相手に影響を与えるのです。そこでノイズ対策からも電源別系統に意味が出てきます。この理屈を説明しないとただ別なタップや壁のコンセントで電気を取るだけのことになり、ノイズ対策にならないこともあるでしょう。